ピンポンの感想
ピンポンの感想をずっと書きたいと思っていたところ
kenpi20さんの感想がすごく良く、ピンとくるところがあったので、自分も思うところをのっけたい。
ペコはなぜヒーローなのか
この漫画の登場人物は、勝負の呪いにかかっている。
勝負の世界とは、勝てば官軍、負ければ賊軍、その精神が支配する世界だ。
勝負の呪いは様々で、この漫画の登場人物にはそれぞれの呪いが割り当てられている。
アクマ
アクマは自分に才能がないことを認め、勝負の世界から降りる。
ピラミッドの上のほうにすらいけなかった存在。惨めな自分という自己評価の呪い。
その構造上、世界の大多数の人々がかかる呪いといえる。
チャイナ
チャイナが抱えるのはエリートの挫折。
日本で一旗あげて、中国へ凱旋しなければならないと考えている。
ピラミッドの頂上までたどり着けなかった存在。上の下。一度期待してしまったゆえの苦痛がある。
ドラゴン
ドラゴンは常勝を期待され、それに応え続けなければならない。
ピラミッドの頂点ゆえの呪い。かかる重圧は計り知れない。
最近で言えば、吉田沙保里が例としてあげられる。
スマイル
スマイルの呪いは、すごく現代人特有のものといえる。スマイルにとって卓球は死ぬまでの暇つぶしにすぎない。「他にやることがないから、小泉の言う次のステージとやらを見てみよう」そんな心境だ。だからスマイルは勝負に勝っても笑顔を見せない。
小泉
小泉は選手時代、親友との勝負で非情に徹しきれず、自滅した。だからこそ、スマイルの才能と冷徹さに期待した。
ヒーローが与える救い
アクマ
アクマにとっての救いは、勝負の世界から離れること。
そして、贔屓にしている選手が舞台で活躍することである。
自分はダメだったけど、自分の好きな選手が自分の無念を晴らしてくれた。自分の代わりに頑張ってくれた。そういう救いがある。
なぜ、ファンというのが存在するかの一つの答えだと思う。
チャイナ
チャイナは、競技者以外の道を提示されるのが救いである。
チャイナは1年間、高校生を教えるという経験をするが。インターハイの場でチャイナは意図せずして、ペコを育ててしまったことを知る。
上の場面はチャイナがこれから先、選手ではなく、指導者の位置におさまることを予感させる。
ドラゴン
ドラゴンの救いは2つ。
勝負を楽しむこと。そして、負けること。
勝負には勝つこと以外にも意味があることを教えられる。
スマイル
自己表現に真正面から応えてくれる人に出会うことが救い。
スマイルは人との交流が苦手で、卓球を通してでないと自己表現ができないキャラクターである。
しかし、観念的に勝ち負けという文脈から逃れることは難しいため、卓球で自己表現をしてもスマイルは他人と繋がることができなかった。
ペコのヒーローたる所以は、勝ち負けがあっても、勝者が敗者を蹂躙するという感じをうけないことである。
試合は二人で創るもの。勝ち負けは単なる結果にすぎない。
ペコはスマイルの自己表現に唯一応えることができたのである。
小泉
自分を引退に追いやった旧友と同じ、右膝を怪我したペコ。
怪我に負けるでもなく、逆境を乗り越える姿に、ヒーローを納得する。
こう見ると、笑わない月本の、スマイルという名前がおもしろい。
月本という名前、シンボルマークの三日月は口角の上がった笑顔を連想させる。
ペコはヒーローゆえに、スマイルの笑顔を、スマイルらしさを引きだせる。