その男、凶暴につき【感想】
かなり面白かったです。感じたことをつらつらっと。
あらすじはウィキペディアを参考。
犯人は無傷で捕らえるべきか?
日本の警察は特にそうですが、犯人をなるべく無傷で捕らえるべしという理念があります。それが裏目に出て、話の中では逃亡した犯人一人捕まえるのに、警察が何人も負傷します。子供にも優しい刑事がボコボコにされるシーンはなかなか悲しいものがあります。我妻はこの理念に背き、手段を選ばず堂々と暴力を行使します。それが始末書ものの行為であろうと、対等な条件でなければ負けると考えているのでしょう。
これは、劇場版パトレイバー2と同じ構図です。PKO活動中に敵軍の発砲があったにも関わらず、日本軍は発砲許可をもらえずに一方的にやられます。なぜ、力を行使できないのか、平和ボケにもほどがあるぞというわけです。
機動警察パトレイバー2 the Movie [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
- 発売日: 2008/07/25
- メディア: Blu-ray
- 購入: 3人 クリック: 148回
- この商品を含むブログ (60件) を見る
正義の行使には力が必要なんだということが、暗黙の内に語られるわけです。
そして、見てる側からすると、身内が非暴力ゆえにやられ、我妻が犯人をボコボコにすることでスカッとするし、力の行使に納得感があるように演出されています。
努力の甲斐なく、世界は変わらない。
我妻により、清弘も仁藤も死にました。しかし、麻薬組織は首が新開にすげかわるだけで存続。警察から麻薬の横流しも岩城が死んで、新米菊池が取って代わります。世界は変わらない。無力感。ひたすらに虚しい結末です。
妹の憐れさ
我妻が清弘を殺害すると、そこに我妻の妹が現れます。妹は清弘の死も気にせず、兄の姿も気にせず、ヤクを猿のように探し、あさります。それを見た我妻は妹を射殺します。射殺した理由を2つ考えました。
1.妹が生きるすべがないから、殺した。
我妻は殺人を犯している以上、この後平穏に暮らすということは考えられません。自分以外に妹をサポートできる人間がいないゆえに殺したという考えです。でも、これはたぶん違います。
2.妹は社会のクズであると感じたから、殺した。
妹は入院していたことが話の中で語られてますが、おそらく過去にも麻薬をやっていて、そこから更生するための入院だったのだと、僕は推測します。
我妻の目の前でヤクを漁る妹の姿はとてつもなく憐れに描かれてていて、とても更生の見込みがないと感じさせます。元々、我妻は妹を大切に思っています。しかし、今目の前にいる妹、我妻が捕まえてきた犯人と同様に、社会のクズなのです。肉親を思う気持ちを遥かに超えて、生きる価値のないクズと判断したゆえに、我妻は引き金を引いたように思います。
なぜ我妻はあそこまで行動したのか。
我妻の姿からは、すごく平成っぽさを感じました。正義の情熱とか、そういう熱いものではなくて、ひどく乾いたドライな感じです。
社会は変わらないという無力感。正義を守るという熱い心ではなくて、社会のクズどもを処理するというような感じ。感情ではなくて、反射で生きているような、そんな感じ。クズを処理するという合理性をつきつめた結果、みたいな行動にみえました。
「キチガイばっかりだ」というセリフからは、世界を諦め半分で眺める、冷めた目線が感じられます。この映画の世界観がこのセリフに凝縮されているように感じました。